こんにちは。まだまだ暑いですが、秋の気配も感じる今日この頃です。暑いので、冬の記憶を蘇らせて、気持ちだけでも涼しくあろうと、ある冬の日の回顧録。
いつ頃からだろうか?長い長い冬の地域で過ごしてからではないだろうか?
冬が好きになったのは…
その地域では、7月の頭でも確かマイナスを記録していた。
この長い冬はいつ終わり、春はいつやってくるのだろうという事ばかり考えていた。
窓辺から見える雪景色は絵画の様でそれが私の癒しであった。
ダイニングには大きな暖炉があり、日中は暖炉の前に椅子を持ってきて紅茶を飲んだ。夜になれば、仲間達とワインを飲みながら語り合う。外は雪で閉ざされた世界なのである。
暖炉の火が消えかけたら、大きな天板に焦げた丸太をのせ、スモークハウスへと運ぶ。スモークハウスの中心にそれをおき、チップをちらして煙を作る。
スモークハウスには、ポーク、ダック、ベニスン、ラム、サーモンが入っている。その冬には丁度手に入った鰆もあった。
鰆のスモークは、日本から移住した寿司職人のおじさんが教えてくれた。
そう。ここは日本ではない。
これから、私が住んだ事のある国の思い出を記録していこうと思っている。
昔の様で昔ではない、私がヘブンと呼ばれていた場所に住んでいた時の記憶。
記憶が鮮明なうちに…
その冬は、けがに見舞われる事の多い冬だった。
オイスターナイフで左手の中心をひどく刺してしまい、大きな怪我をしてしまった。
そして、私は通院することになる。
ある日、滞在先のご夫婦が仲良くしているチューリップボーイが街の病院まで私を連れて行ってくれることになった。
チューリップボーイは愛称で、彼の名前はダニエル。
ダニエルがチューリップボーイと呼ばれるわけは、毎年私の滞在先に1000個ものチューリップの球根を届けてくれるからだ。
街へ向かう道すがら、ダニエルは自分の事をたくさん話してくれた。
昔は自転車の選手で、怪我をしたことで今は公務員であること。親戚が交響楽団で演奏していること。年老いた両親と一緒に暮らしていること。自宅の敷地が広いので、色々と栽培していること…
私が住んでいた場所は別荘地で、この辺りに住んでいる人みんなゴルフ場の様な広大な敷地に住んでいる人ばかりであった。
勿論、私の住む家も、敷地の端から端まで徒歩で移動すれば、1時間ほどはかかった。気づけばお隣の敷地に足を踏み入れたことも何度かある。
ダニエルとは30分ほどだが色々な話をした。クラッシックが好きな私に、今度一緒にオーケストラを聞きに行こうと誘ってくれた。
私は「ぜひ!」と答えた。
そうこうしている間に、街の病院に着き、その後はダニエルの買い出しに付き合った。
今日のお礼にと、私はスーパーで食材を買い、ランチを作ることになった。
帰宅すると、玄関でダニエルが私にある物をくれた。
それは、鉢植えの香りがとても良いヒヤシンスであった。
突然のプレゼントに驚いたのと、ヒヤシンスをこうやってまじまじと見るのは小学生以来だと思った。
スーパーには沢山の切り花がある中で、球根の長く楽しめるヒヤシンスをこっそり買ってプレゼントしてくれる所に心遣いを感じた。さすがチューリップボーイと呼ばれるだけあるな。なんてことも思った。
お部屋に飾ればよかったが、私のお部屋は屋根裏部屋で、小さな窓が一つと、大きなベットがあるくらいなとても簡素なお部屋だったので私はそれを、みんなも楽しめる様にとダイニングに飾った。
帰宅して、早速ランチの準備に取り掛かった。作ったのは「ルッコラと生ハムのオイルパスタ」。
スーパーで一緒に物色している時に、美味しそうなルッコラを見つけたので、「ルッコラ好き?」と聞いたら「大好きと」答えてくれたので、このメニューになった。
ここで作り方の紹介。
「チューリップボーイのルッコラと生ハムのパスタ」
材料
ガーリック2片、エキストラバージンオリーブオイル適量、赤唐辛子1本、ルッコラ適量、生ハム適量、パスタ約180g(ディチェコのフェデリーニ使用)
作り方
1大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かし、塩を適量。ルッコラは大胆に3等分ほどに切る。ガーリックはスライス。
2冷たいフライパンに刻んだガーリックとエキストラバージンオリーブオイルを適量。弱火で加熱しながらガーリックがキツネ色になるまで炒める。
3その間に1で沸騰させた鍋にパスタを入れ茹でる。
4茹で上がったパスタをザル上げする。この時に1カップほど茹で汁は取っておく。
5 2のフライパンに4のパスタ、種を取った赤唐辛子、茹で汁を60ccほど入れてオリーブオイルと乳化する様に中火で加熱しながらぐるぐると混ぜる。
6器に盛り付け、ルッコラと生ハムをちらして黒胡椒をかけて完成。
さあ、召し上がれ。
できたお料理に彼はとても喜んでくれた。
帰り際に、今日のランチのお礼を言ってくれ、ほっぺにすごい勢いでキスをしてくれたが、そういった風習に慣れていない私は引きつった笑顔だったと、今思い返すと思うのである。
その冬以来、私の大好きなお花となったヒヤシンス。
今ではヒヤシンスの球根が出回る時期に毎年ヒヤシンスを植えたり、水耕栽培で楽しむ習慣がついた。
冬の間は、私のベットサイドにヒヤシンスが置かれる。
飼い猫ゾーイは匂いは嗅ぐが、ヒヤシンスは食べようとはしない、とてもお利口さんな猫なのである。
あの時、本当はベットサイドに置きたかったお花を、毎年こうして置ける事が私の冬の楽しみである。
今日はこの辺で…
ごきげんよう、さようなら。